カラーコード

昔話を書く。

エアコン用のリモコンなどの小型電気機器の裏側に小さい文字で色々と印刷されているが、その中身を読んだことがある人は少なかろう。ここで取り上げるのはその内容ではなくて、文字の大きさである。1970年代には高速でしかも安価にあんなに細かい文字を印刷する技術はなかったのである。なお、腕時計の文字盤の数字など高額製品に印刷する技術はあった。

当時の電子部品で一番安価なものは、250mW(1/4W)の抵抗器であった。購入する数量にもよるが秋葉原で一本ずつ購入しても5円はしなかったのではないだろうか。一本ずつ購入されてはメーカーも生産コストより販売や管理経費がかかって困るので、50本とか100本単位で流通していたような気がする。

それらの電子部品を使って電子機器を製造するメーカー側でも、そんな安価な部品に在庫管理の経費を掛けるのは無駄なので「在庫管理しない」方法で在庫管理していた。

なにしろ、精度が±5%という一番安価な抵抗器を考えても、1.0kΩ(キロオーム)、1.1kΩ、1.2kΩ、1.3kΩ、1.5kΩ、1.6、、、と10kΩまで24種類の抵抗器があって、さらに10kΩ、11kΩ、12kΩ、、、と24種類、10kΩから100kΩで24種類、100kΩからと際限がないが、普段使うもので大体100種類の抵抗器がある。更に精度が±1%となるとその4倍の本数になる。

で、それぞれの抵抗器にその抵抗値や精度を印刷するのは大変なので、写真のようにそれぞれの色が数字を表すカーラーコードを印刷している。

炭素被膜抵抗器 1/4W

虹の七色は、「せき・とう・おう・りょく・せい・らん・し」で、漢字で表すと「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」ですが、これの頭に「茶」後ろに「白・黒」を加え、カラーコードではこの「茶・赤・橙・黄・緑・青・藍・紫・白・黒」を「1・2・3から0」まで当てはめて示しています。

例えば、写真の抵抗器は左下から右上に読むと「茶・黒・燈」なので、「1・0・3」と読み取れます。これは「1・0」がずばり「10」を表して、「3」は10の3乗」つまり1,000を示します。つまりは、10,000Ω、言い換えると10kΩ(キロオーム)ということになります。

そして、よく見ると「燈」の横に薄く「金」の帯があり、これは±5%の精度を示しています。

電機製品の裏蓋を開けると、回路が印刷されたプリント基板という部品があります。ベークライトやエポキシガラスなどの樹脂に薄い銅箔を貼り付け、そこに回路を印刷し、部品取付用の穴を開けてあって、そこに写真の抵抗器などの両側の足を曲げて半田付けすると回路の出来上がりです。

1960年代は、部品を手で摘まみ、足を折り曲げ、基板の穴に挿入、足を折り曲げて落ちないようにしてから、板をひっくり返し、半田付けして、余った足を切り取るという全作業を人間の手で行っていたのでした。

1954年には米国ユニバーサル・インスツルメント社が、この両側に足がある形(アキシャル・リード型)の電子部品の自動挿入機を開発していたのですが、1968年に松下電器産業(現在のパナソニック社)が安価な自動挿入機を販売開始したので、爆発的に広まりました。

その後に、足を曲げて、挿入して、折って、切ってという行程が無駄だということで、抵抗器を羊羹のように立方形に作り、プリント板に糊を貼って、そこに載せていく方法が1990年代の後半に採用されたので、製造時間の短縮と部品の小型化、ひいいては製品の小型化が計られて、今ではチップ型の抵抗器には何の印も印刷されていません。

そのチップ型抵抗器の大きさは「1608」から「1005」になり、現在は「0603」つまり、0.6㎜X0.3㎜の大きさになり、「0201」も開発されているので、抵抗値を印字しても読めないくらい小さくなってしまったのです。

なお、そんな風に飛ばされるような小さな部品は一個売りはされずに、5,000個単位で販売されているので、抵抗器の抵抗値を間違えることはありません。

こうして振り返ってみると、私が現役を始めた半世紀前と現在とでは丸で世の中が変わってしまい、カラーコードを記憶しても少なくとも電気電子の世界では役立たずということが判ります。