松山往来記

愛媛県松山といえば、夏目漱石の小説「ぼっちゃん」、道後温泉松山城などが頭に浮かぶであろうが、乗り鉄を趣味としている私にとっては興味深い土地なのである。何故かというと伊予鉄道という私鉄の電車が3路線あって、同じ経営の路面電車が6系統も動いているので乗る楽しみがあるのである。

定年退職後、人間何か目標を持たないと堕落してしまうと考えて、日本全国のJRと私鉄の全線を完乗することを企てて、乗り始めた。それまで、鉄道の趣味はなかったが、旅好きであり、全国を回る仕事もあったので鉄道には馴染みがあった。それに全国への出張のおかげで既にかなりの路線には乗っているのである。

2024年4月の段階で、北海道、本州の線路は全部乗ってしまった。四国も半世紀前に周遊券で廻った。九州も福岡県近郊と肥薩線くま川鉄道を残すだけになった。学生時代の四国には無かった路線もあり、3日間で乗り損ねた路線を乗ろうと計画したのである。

四国の入口である本四連絡橋を渡って高松に入り、名物の讃岐うどんを食べ、地元の琴平電鉄に乗り、徳島に移動して宿泊。翌日は海側の路線に乗って高知に入り、路面電車と地元の私鉄に乗って鰹の藁焼きを食べて高知泊。翌日は西に移動して四国の西端の宿毛まで出て、また少し戻って宇和島泊。

宇和島駅の始発に乗って松山市駅に降り立ったのは、土曜日の早朝で路面電車の時刻表を眺めていたら「土日祝祭日運休」の路線を発見した。本町線というたった一系統であるが平日でも終電が13時ごろという路線であった。当日は土曜日であるからあと二泊して月曜日に乗るという手もあるが、それはもったいないので松山へ再訪することを誓ってJR松山駅から特急しおかぜに乗り込んだ。

さて、インターネットのおかげで、事前に綿密な乗り鉄計画を立てることができるが、よほどの手間暇を掛けないとアテが外れることがある。今回も伊予鉄道の電車の一日券を買おうとしたら2023年末に廃止されたと言われた。そして今度は路面電車の一日券¥800を買おうとしたら「みきゃん」アプリを使えとのこと。つまり伊予鉄道のPayアプリである。住所氏名などを登録して、最後は引落しの銀行口座まで登録する羽目になった。そして最低入金金額は¥1000なのである。¥800の一日乗車券を購入すると¥200が残ってしまうのである。

説明を忘れたが、「みきゃん」とは愛媛名物が「みかん」であることから、アプリにもそれに因んだ名前がついているのである。そして伊予電鉄の電車、路面電車の殆どがみかん色に塗装されているのである。

みかん色の路面電車

何はともあれ、まだ四国には未乗の区間があったので、当日は瀬戸内海に面した線路に乗り、多度津駅から阿波池田駅まで乗り、松山の路面電車本町線を残して帰宅したのであります。

さて、乗り鉄の楽しみの半分以上は計画の立案にあって、今回残してしまった松山をどう攻略するかを考えたのである。一番妥当な案は、松山まで飛行機で移動して路面電車に乗ったら、松山近郊の港からフェリーで小倉へ渡って九州の乗り鉄旅に繋ぐというものであった。

そこで、松山行きの飛行機を検索していたらLCCのJetstar社が片道¥4990という金額を提示していたので迷わず’ポチッとした。LCCとはLow Cost Carrierつまり安い航空会社ということで、機内の飲み物は有料、機内預け荷物も有料、さらに日程変更できる権利は¥1800。乗ってみて判ったのは前の座席との距離が狭く、背もたれもあまり傾けることができないということである。

そして、迂闊だったのはその飛行機は羽田発ではなく、千葉県成田発の便であったのだ。成田空港8時30発に乗るには、自宅近くの駅から5時27分発の電車に乗り、途中から「成田エキスプレス」なるJRの特急電車に乗らないと間に合わない。その特急料金が¥1730なのである。

当日は寝不足の重い身体で成田空港第二ターミナル駅に降り立ち、Jetstarの搭乗口のある第三ターミナルまでは15分も歩かねばならないのである。しかもその移動の半分以上は屋根がついているとはいえ、外壁のない屋外の廊下を延々と歩くのである。なお、途中からは壁付の廊下になっていることも付記しておきたい。もちろん、第二から第三ターミナルへのバスも走っているが頻繁に出ているわけではないので、乗るより歩く方が早いこともある。

さて、搭乗ゲートに到着しても、JALANAで見慣れた自動改札機はないので、ただただ待合のソファーが並んでいるだけである。そして搭乗時刻になるとお決まりの松山行き○○便に搭乗される○○様はいらっしゃいませんかというグランドホステスの声は聞こえず、代わりに大阪行き○○便の搭乗手続きは終了致しましたので、山田太郎様、佐藤花子様、鈴木次郎様はお乗りになれません。という残酷なアナウンスがあったのには驚いたのである。

さて、搭乗時刻になると、通常ではファーストクラス、ビジネスクラス、ナントカ会員が優先して乗り込むことになるのであるが、全席エコノミーなのでまずは窓際のお客様から先にご搭乗下さいというアナウンスがある。通路からみて一番奥の客から乗せた方が混雑を防ぐことができるのである。つまり、通路側の客が座ってシートベルトを締めたあとに窓際の客が来られると面倒なことになることを防いでいるのである。

また、自動改札機がないので、係員が右手に持ったハンディスキャナで乗客の提示するQRコードをスキャンし、左手のiPadで確認するという方法を採っているのはたいした投資削減だと感心した。ひとりの客が間違って松山からの復路便のQRコードを出して止められていたので、この方式であってもちゃんと機能しているようである。

また、ボーデディングブリッジもないので、写真のような通路を歩いて最後はタラップの階段を昇って乗り込むことになる。 

ボーディング通路

さて、エアバスA320の機内に乗り込み、座席に陣取り観察してみると液晶モニタがどこにもないので、避難や救命胴衣の説明はキャビンアテンダントが実際に身をもって説明してくれるのはかえって新鮮であった。もちろん、機内WI-FIなどない。飲み物を運んだワゴンがやって来るが飲み物は全て有料である。なお、私の乗った便は日本航空とのシェア便というアナウンスがあったが、JALの客は無料でジュースなどを飲むことが出来るのであろうが、第三ターミナルまで歩かされるのはかわいそうだと同情した。

機内でドリンクが提供されるのには理由がある。私はかつて空調の業界にいたことがあり、飛行機の空調のテキストを読んだことがある。飛行機は上空の乾燥した空気を取り入れているが加湿装置は付いていないので、機内の空気は乾燥しており客は水分補給の必要があるのである。但し、成田と松山の間くらいの短時間であれば現地に到着してから自分でドリンクを買って飲めという考えなのである。

その考えに従って機内ではドリンクを我慢して、松山空港に着いてすぐに水分補給をした。ここには蛇口から出るみかんジュースを飲むことが出来るのである。¥400を支払い、コップを貰うと自分で蛇口を捻ってコップにみかんジュースを注いで飲むことができるのである。この蛇口からみかんジュースというのは松山名物で、少なくとも市内4カ所で見掛けた。どれも¥400であったが、1カ所だけ¥100の場所があったので、松山へお越しの際は各自捜索されたい。

みかんジュースの蛇口

ようやく、本論の乗り鉄に入る。

松山には松山城の南に伊予鉄道松山市」駅があり、少し城から離れた西側にJR松山駅がある。そして、松山城の周囲を一周するように路面電車が走っている。そして、土日祝祭日運休となる本町線は、東京の線路に例えれば山手線に対する中央線の関係なのであるが、松山の中央線(本町線)は南北に走り、西側に偏っていて200m西側にはJR松山駅前を通り並行する環状線が走っているのである。加えて城の西側の堀に沿って線路が走っている。つまりは線路の東半分は乗客が望めないのである。そして他の路線は複線であるが、この路線は半分が単線である。加えて、2023年には便数が半減され、路線の道路には伊予鉄道が路線バスを運行しており、いつ廃線になってもおかしくはないのである。 

松山の第六系統時刻表

上の写真は始発の松山市駅のものである。12時38分の終電は折り返し谷町六丁目駅13時00分発の終電となる。

さて、文章の題名は往来記となっているが、そろそろ風呂が沸いたのでここらで筆を置くことにする。ではまた。